欧州型森林管理者研修初日 スイスフォレスター
よ更新にちょっと間があいたかな。
まあ、あっち行ったりこっち行ったりして非常に忙しい日々でありました。
その成果は、またすこしずつブログで紹介できたらと思います。
んで、今日はタイトル通り奈良県で欧州型森林管理者研修というものがありまして、まあつまりはスイスフォレスター、スイス近自然研究所、(株)総合農林ということですな。
定員20名を超える参加者があり、また久しぶりの再会を果たしたり、これまで会いたいと思っていた人に出会えたりと楽しい時間を過ごしたのですが、それよりもなによりもやはり研修内容。
ひとことで言うと、すっごく良かったです!
ということで、ざっと内容を書き起こしてみます。
- フォレスターに必要なのはまず観察、次に観察、最後は観察!
- 条件を見る
この森はどういう森なのか
→昔はどうだったのか
→この森は未来にはどうなってしまうのか
→設定した目標に対して何をしたらいいのか - 現在の森の様子を見る
勾配、傾斜の確認
山の向き
土壌はどうなっているか(木ばかり見ていてはダメ)
標高、気候はどうなのか
風はどの方角から吹きやすいか
積雪の確認
樹齢の確認
どんな樹種か
成長具合はどうか?(形状比が高いと不安定)
密度はどうか
樹冠(クローネ)の確認
材のクオリティは枝が多すぎない方がいい(成長しすぎない)
成長を確保しながら管理する
樹冠は樹高の1/3が理想、1/4以下だと厳しい、1/5以下になると成長を期待できない
地力の測り方→植生を確認する!
土壌が大切 - 今に至るまでにどうしてこのような森になったのか
一種類だけを植えた
最初下刈りしていた
切り株や枯れ木から間伐のタイミングを知る
形状比が高いと弱い山になる
どこから日が射すのか - 何もしなかったらどうなるか(未来)
木が光を奪い合うだろう
枯れ木も出てくるだろう
それぞれの樹冠が小さくなるだろう
さらに形状比が高くなるだろう
光が多くの木に分配され、一本の成長が低くなりクオリティが低くなる - 目標
いいクオリティの木が大きく成長すること
ここまで見て結論をだす→この山は手入れが必要 - では、何をすればいいのか
切りやすいように作業するのではなく、いい山にするために作業すること
収穫しやすいかどうかを優先しない
質の良い木を太らせるのは全てではない
残したい木(ツェットバームということ、育成木、将来木)が傷つかないように
安定性とクオリティ
いい木でも台風で倒れたらおしまいなので、まず安定性を考える
個々の木と森全体の安定性をまず考える
森によっては近くに鉄道や住宅があったらクオリティよりもまず安定性
経済林は安定性とクオリティを両立させないといけない
クオリティがあまり高くない木は世界中で生産される、そこでは勝負できない
我々(スイス、日本)は高いクオリティの木を生産しなければならない
材価は上下するが、いい木はある程度安定している
原木は自分たちだけではなく、お客さんがほしがるようなクオリティの高さも必要
手遅れ林からスタートしなければならない、ここから何ができるか考える(フォアキャスト)
100年後200年後どうなっているかイメージすることが大事
いろんな樹齢の木があって何層にも分かれている森
最後は森が自然に自力で育っていく
人間の関与が少しでいい森になるのが理想
最初はクオリティの高い木のために作業するけど、将来はほとんど何もしなくても太い木を収穫できる森にしたい(恒続林という)
この現場は恒続林になるまで80年以上かかるだろう - 森は自然の摂理に沿ったら成長にお金はかからないけど時間はかかる
摂理から離れるとお金がかかる
摂理にそった森作りを目指す - 恒続林になるまでも、収入を得ていく
- 基本は森の所有者が利益を得るためにすること。でも、ゲルマン民族では森はみんなのもの。私有地でも皆の者。森の「機能」は私物化できない
つまり林業の手入れには、いろんな税金、補助金が使える
経済活用には使えないけど、森の機能を高めるためなら使える - 1月に実質的な固定相場がなくなって、スイスフランが一気に20%上がった数分後に材価が20%落ちた。こういうことは避けることができない
ここで大事なのはもし自分が普通のヒノキだけ作っていたらここで破綻してしまうということ
そこでいろんな樹種のいろんなクオリティがあって、いろんな売り先があるのが一番
こうするとなにか生きる道が見つかる - 国際的な材価を毎日調べて伐るわけではないが傾向は見ている
地域的な価格の確認もする - 900haのリスク分散もだけど、小規模所有者でもできるだけリスク分散を考える
それが出来ない場合(この山は地形や環境的に単一樹種になってしまうなど)はいつ切ったらいいとかのアドバイスもする(つまりタイミングのリスク分散) - こういうアドバイスは所有者は負担はいらない。税金から
- 公有林はノルマではなく成長量以上切ってはいけないという上限がある
私有林は切りすぎないようにアドバイスしてる
1ha10から12立米しか伐らない
900haあって現場は成長量よりも伐ってない - 公有林は伐採計画がある
私有林は魅力的な計画を提示しなければならない
多くの所有者にいつ何をしたらいいのかを提案し、それを実行する - 所有者と長期管理契約を結ぶのは稀
それぞれ一回ずつの施行契約になる
一回ずつの小規模所有者を取りまとめて施行するのが基本の仕事 - 育成木ツェットバーム
まず安定した木を探す
良さそうな木の根元に行く
必ず立木の下から見はじめる
根張りはどうか
根元に傷、腐れはないか
幹は真っ直ぐか
一番下の枝はどこにあるか
樹冠はどうか
あまり大きくないけど、見渡して他にも良さそうな木がない、これをツェットにする!
この木が理想的に大きくなるにはどうすればいいのか
周りを切った時に傷ついてはいけない
木の潜在能力を開かせるにはどうしたららいいのか
もっと樹冠を大きくしたいから間伐しないと!
ただ間伐するのではなく安定を失ってはいけない
育成木の下側の木が支えているから伐らないように
ライバルは伐るけど、サポーターは伐らない
ツェットよりも上側の木はライバルのことが多い
樹冠に触っている木は伐る、触っていなければ伐らない
次に何年後に手入れするか考慮する
少しずつ伐っていくのがいい、でもいつもそうできるとは限らない
次が8年後とわかっていたらそれに見合った手入れをする
下側の木は伐らない
伐る必要のない木は伐らない
伐ることのコストが合うのか、それに見合うリターンがあるのか
これが答えではない。別のフォレスターはまた違う選択をすることもある
大事なのは伐った後、自分が考えたようになったのか振り返ること
数年後にまた検証する。これを繰り返すことが大事。
標高200mでは正解でも1000mではダメかもしれない
一つの答えはない
やり足らないのは修正できるけど、伐りすぎたら修正できない
次の育成木は隣の育成木と将来にわたっても競合さないようにする
なので広葉樹の時はすごく離れることもある
針葉樹は距離が近い場合もある
ここならまず10mくらい離れてから探す
10m以内はダメなので、どんどん離れるようにして探す
森はいきものなので10mごとに育成木があるわけではない
下から初めて、横に歩いていき、つづら折りでだんだん登っていく
後で上から見渡したら育成木を確認しやすいから
根元に腐れがあるのは安定性に問題がある
評価はいつも下から、根張りから
理想的な木はあまり多くない
まず、安定した木の中から一番マシな木を育成木にする
育成木が決まったら上側で最大のライバルを探す
すぐ横にある劣勢木は育成木のライバルになってないのは伐らない。切るのは間違い
迷うやつは全体の間伐率や光が入って土壌が豊かになるなどを考慮することもある
小さい木でも伐倒するコストはかかるのでその考慮も忘れない
スイスは間伐補助がないのでコストをかけた以上に育成木が育つのかを常に考える
今伐るべきなのか、天然更新が済んだ後に伐るのか、後で伐ることはできる。
藤蔓なども育成木に影響が出るのであれば伐る、影響なければ放っておく
育成木は早く選んだ方がいい、ただし、あまり早いと安定性とクオリティの判断ができない。
20年生、20センチくらいの時に判断したい。
ただしそれまで何もしないわけではない、もっと早くていい場合遅い方がいい場合もある
森を観察して決めるなので、良いフォレスターの条件はその森を熟知していること、
自分が一本一本育成木を把握できなくなったらそれは広いということ
限界は1000haぐらいだろう
沢山の育成木を選ぶのではなく、数は少なくても、しっかりした育成木を見つけることが大事
本数目標を決めて達成するために選んではいけない
育成木同士の間に何もなくなるようにしてはいけない
ライバル木の除伐で儲けることもできる
ライバル木の周りの木も伐採する必要が本当にあるのか考える
ライバル木に投資する必要があるのか
土地が崩れそうな場合、その周りに育成木は選ばない方がいい
いつか崩れてしまったら、投資が無駄になってしまう、これは林業にとってのリスクだ
この土地に合う根の深い樹種があるはず。それも植えると良い。
複層林にするのも雨が直接土地を叩きにくくなるので良い。
ここまでしてもリスクはなくならない。なので最初からこういうリスクは見込んでいた方が良い。
一番森にダメージになるのは林道、作業道建設
なので非常に慎重にプランニングしないといけない、道沿いには育成木も選ばない。
育成木に集中投資するという発想
樹種の少ない単調な森の場合、広葉樹はなるべく残したい
育成木に相当影響を及ぼす以外は残したい
育成木を選ぶ時に元気な木があって迷う場合、ライバル木を伐ることによって育成木がその分を補ってくれるのか。補えないなら伐るべきではない。
森の成長量を最大に持っていくことが大事
育成木が強い木なら、ある程度ライバル木を広い範囲から選ぶ、つまり周りを伐採してもいい。
これは強い木をさらに強くするという考え方(←あばれ木との関係は?)
一般的に樹木に光が当たるといまグリーンのところが成長する、 いま枝がないところはそのまま
片枝の場合、クローネが全周になるには長い時間がかかると判断してほしい
「天国から先生が来るわけではない」(スイス格言)失敗の経験が私たちを先生にする
森作りの理想は誰が来てもワオ!ということ
10年ごとに施行して30年後には誰でもこれが育成木だとわかるように施行するようにしている
テープを巻くのはは良くない、スプレーやペンキで印をつけるのがよい、山側と谷側にマーキングする - 目標は針広混交林、そういう森を見ることも大事
この辺りがどのような自然林だったかを知ることも大事
針広混交林は仕事の効率は落ちるかもしれないけど、ずっと面白くなる
針葉樹だけの森は簡単だけど、面白くない
自分の仕事は誰でもできる仕事ではない。敵地適木を見極めて、それでも経済的に回していけるかどうかが腕の見せどころ - 若い人の教育、いつも同じ仕事はダメ。むずかしいけど、面白い仕事にしないといけない
- 植林はしない。天然更新を目指す。なぜこの地で天然更新しないのかを考え、観察する。
- 自然のポテンシャルをお金をかけずに引き出すにはどうしたらよいか考える
ーーーーーーーーーーーーーーー
とまあ、初日はこんな感じでした。
正直、フォレスターというのは現場作業員にはダイレクトに必要なものではない、という意識がありましたが、いやはや、俯瞰した判断を実行するのは、結局僕たち作業員。
スイスフォレスターの考え方というのは、現場でも十分に生かされるものだと思いました。
特にコストの考え方。
育成木に集中投資するという姿勢。
スイスには間伐に対する補助がないので、劣勢木でも育成木に影響がなければそのまま置いておく。
もちろん環境のことも考えた上で判断を下すけど、それも含めてコストに見合ったリターンがあるのかどうか。
研修会はあと2日。
明日も楽しみだー
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コメント
初日から濃いな~
大変参考になります。詳細レポート感謝です。
1000ha一本一本ですか。スケールが違いますね。
やっぱり大きく、永ーいスパンが林業なんだなーと改めて思いました。
明日以降のレポートも楽しみにしています。
投稿: オバタ | 2015/06/18 23:32
お疲れ様です!人間主眼ではなく、自然主眼で考えてみると当たり前のことなんですよね!いつから日本人は自然を敬わなくなったのか?恥ずかしい限りです。その当たり前の事が出来ていないのが日本の林業だと思います、どこまで出来るか分かりませんが、気付いた人間だけでも一歩一歩やるしかありませんね、頑張りましょう!
投稿: 林 | 2015/06/19 16:24
補助金に頼まないストイックな施業方針素敵ですね ひとつ質問ですが、広葉樹の切り捨て(ならとかほうのきなど40年生くらいと思います)は価値があるのでしょうか 正直税金を燃やして暖をとって細々生きているような虚しい毎日です 誰か空飛ぶ滑車作らないかな~
投稿: 倉本 | 2015/06/19 22:27
オバタさん、ども!
えーと、管理してるのは約900haで、そこにあるすべての育成木を完全に把握していると。
育成木に集中投資するので、それは当たり前のようです。
スイスフォレスターはリスクとリターンについて素材業者の親方以上にシビアに計算している印象ですね
投稿: でき杉 | 2015/06/19 22:47
林さん、おつかれさんです!
山林は資産であって、施業は投資なので、もうけを追求してしまう面もあったのだと思います。
でも、いまは森林の多面的な価値というのが受け入れられている時代ですので、これからが本番ですよー
日本一遅れている奈良の林業がスイスフォレスターに学ぼうとしている。
変化の兆しは確実にあるのだと思いますよ!
投稿: でき杉 | 2015/06/19 22:54
倉本さん、コメントありがとうございます。
広葉樹の切り捨てですかー
スイスフォレスターにいわせれば、「なぜそれをするのか」を確認するべきでしょう。
優良な木の成長を促すための切り捨てならまだ気持ちを切らせずに仕事できると思います。
仕事だから、やらなきゃいけないからやるしかないというのも、それはそれで心をおさめる拠り所にはなると思いますよ。
生活のため、というのも立派な心がけですよね。
投稿: でき杉 | 2015/06/19 23:03
はじめまして。森林総研の正木と申します。たいへんよい記事で、いろいろな人に読んでいただきたい内容だったので、以下のようなコメントとともに私のfb(https://www.facebook.com/takashi.masaki.39)でシェアさせていただきました。(内容そのものに加え、これだけのことをスピーディに文章にされたことがたいへんな驚きです!)
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いい意味で常識的なことが伝えられています。こういう視点をもって森林のことを考えられる人にだけ、森林の管理に携わってほしいものと思います。森林総合監理士にしても、森林施業プランナーにしても。。。
ただし一点、やっぱり・・・と思ったことも。
スイスの方はやはり、天然更新は安易にできる(そりゃぁ不可能とは言わないけど)とお考えのようです。あちらは、(1)地史的な理由で林床植生の多様性が低い、(2)夏の湿度は低く林床植生の繁り方も日本ほどではない、(3)針葉樹はヒノキ科はなくほぼマツ科のみ・・・と、日本と異なる面が多々ある(ついでに地質も日本よりは均質そう)。だから、日本の本州以南の湿潤気候下における針葉樹の天然更新は、不可能とは言わないけど、「自然の摂理」からみて経済行為としては難しい、というのが私の考え。「天然更新ができないならば、その理由を考えること」と指導されているようですが、ご自身はその理由をどこまで深く考えられているのだろう?と、つい思ってしまいます。
話は変わりますが、ハリル監督も先日のシンガポール戦で欧州とは違うアジア独特のサッカーを初めて知った、と言われています。なんか、アナロジーを感じるのですよね。
投稿: 正木隆 | 2015/06/21 10:38
正木さん、うれしいコメントありがとうございます!
facebookもチェックさせていただきました。
ロルフさんの話は確かに僕たちがやってきたことを後押ししてくれるものです。
表情豊かにユーモアと自信をもって語る姿には尊敬の念を禁じ得ません。
確かに天然更新について語る場面は多いですね。
僕らはロルフさんの姿勢や考え方から多くを学ぶべきだと感じました。
明日は最終日。
楽しみです!
投稿: でき杉 | 2015/06/21 22:18
いろいろ調べているうちに
ここにたどり着いたんですが。。。
天然更新に関して
それが可能かどうかを決めるのは
現場で、現場の人間が判断できる連携と
状況を作るのが行政の仕事であって
そういう状況を 作ろう!ってトコまで
きているのは 感慨深い。。。(笑)
投稿: 祝杉 | 2016/03/28 19:09
いや〜、これも祝いちゃんのお力ですわ。
ここまでくるとは、祝い先生の手腕には脱帽。
投稿: でき杉 | 2016/03/30 08:34